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第26話 死んだ夫は、私の妊娠を全株主へ公表しました

last update publish date: 2026-09-03 22:53:00

 朔也の名がAUR‐011の管理者として表示されると、本人は、引き受けないと即座に答えたが、私は、彼が私や子どものため辞退したのか、自分が弟の遺産を奪った男に見られたくないから逃げたのか、判断できなかった。

「拒否する前に、受け入れなかった場合、管理権がどこへ移るのか確認してください。あなたへ引き受けてほしいと頼んでいるのではなく、拒否すれば正しい人間になれると思い、結果を見ないまま決めないでほしいのです」

「俺の同意なく名前を登録した制度へ、拒否する前に説明を聞けと言われること自体が、すでに選択を狭められている。受け入れなければ子どもが危険になると示されれば、自由に断れるとは言えない」

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    第60話 娘を奪おうとした「二人目の母親」も、子どもを人質にされていました 早瀬七海の名で提出された申立書を見たとき、最初に湧いたのは、同意を盗まれた彼女への同情ではなく、娘を奪われるかもしれないという警戒だった。私も朔也も、本人の知らないところで親として登録されたのだから、七海も同じ被害者だと頭では理解できたが、「第二母」という文字を目にした途端、その理解は薄い紙のように破れ、娘のそばへ近づこうとする人間を追い払いたい気持ちが前へ出た。「申立てを取り下げてください。七海さんが書いたものではないとしても、あなたの名義と署名で提出された以上、そのままにはできません」 院内回線の画面に映る七海は、乱れた髪を手櫛で整えようとして途中で諦め、椅子へ深く座り直した。眠りから急に起こされた人の顔には見えたが、申立書の内容を知った驚きだけではなく、これまで見ないふりをしてきた感情まで暴かれた居心地の悪さが滲んでいた。『取り下げます。ただ、私が取り下げると答えれば、澪さんは、私が本当は娘さんを欲しがっていたことまで忘れてくれますか』「忘れられませんし、忘れる必要もないと思います。あなたがどう感じていても、私の娘へ監護権を主張しなければよいのです」『澪さんの娘だということは分かっています。でも、Cと分けられる前には同じ細胞だった子が生まれたと聞いて、何も感じない人間にはなれません。会ってみたいと思いましたし、顔を見れば、自分が失ったと思っている子どもの続きを見つけられるのではないかとも考えました』「それを私へ言えば、正直な人として信じてもらえると思っているのですか」『思っていません。むしろ、言わないほうが澪さんから嫌われずに済むと分かっています。ただ、私は、AURに勝手な意思を作られたと訴えながら、自分に都合の悪い本音だけ隠し、申立書に書かれたことは全部嘘ですと言うのも違う気がします』 七海の言い方は、私へ許しを求めているようでいて、許されやすい被害者を演じることだけは拒んでいた。その頑固さに苛立ちながら、私は、もし彼女が泣いて謝り、娘へ興味などないと言い

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    第59話 私が意識を失った二十二分間に、夫は娘の父親として登録されていました 手術室の端末が、私の意思能力を失ったと判定したとき、私はまだ意識を保ち、篠崎医師が読み上げる出血量も、麻酔科医が指示する輸血の種類も聞き取れていた。視界の端は暗くなり、口を動かすだけで息が切れたものの、誰が何を話しているか理解でき、自分が生きたいことも、娘をAURの管理へ渡したくないことも分かっていたため、機械から先に、何も判断できない人間として扱われたことへ怒りが湧いた。「私は、まだ話せます。意思能力を失っていません」「分かっています。現在地とお名前、生年月日を確認します」と麻酔科医が答えた。「ここは篠崎先生の病院の手術室で、私は久瀬澪です。生年月日は、今から全部言わなければならないのですか」「記録に残すため必要です。面倒でも答えてください」 私は息を整えながら生年月日を伝え、今日、帝王切開で女児を出産し、胎盤を取り出したあと出血が増えていることまで説明した。麻酔科医は、私が現在の状況と治療の必要性を理解し、意思を表明できると判断したが、端末に表示された第二管理条件は消えず、娘の医療同意権を朔也へ移す手続きだけが進んでいた。「機械の判定より、医師の評価が優先されるのでしょう」と私は尋ねた。「医療上は当然です。澪さんは今も、ご自身の治療について同意できますし、娘さんの治療についても、法的な判断が確定するまでは、先ほどの裁判所命令と緊急治療の原則に従います」と篠崎医師が答えた。「それなら、表示を止めてください」「この端末上の登録を止めても、信託側の記録や別の医療機関へ同じ情報が送られている可能性があります。芙美さんと真奈さんが、裁判所へ緊急停止を申し立てています」「私が出血している間に、娘を連れていかれることはありませんか」「新生児集中治療室の出入口へ警察官と病院警備を置き、搬送指示は全て私が直接確認するよう変更しました。電子上の同意だけで、娘さんを院外へ出すことはさせません」

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    第58話 子どもを救うためでも、夫の命を治療材料にはさせません 手術室の監視端末に表示された十八分の数字は、私たちが言葉の意味を理解するまで待ってはくれず、十七分三十四秒、十七分三十三秒と、冷静すぎる速さで減り続けていた。子どもの頭と片方の肩はすでに子宮の外へ出ていたが、下半身はまだ私の中にあり、臍帯と胎盤を通じて酸素を受け取っているため、医学的には出生が完了したとはいえない状態だった。それでもAURの装置は、人間が決める出生時刻ではなく、頬へ触れた空気と温度の変化だけで、子どもを胎内から分離された個体と判定していた。「第三細胞提供者との直接循環とは、朔也の血液を、この子へ直接流すという意味ですか」 麻酔で痛みは抑えられていたものの、腹部の奥を押される感覚と、身体の中から何かを引き出され続ける不快感は残っており、私は呼吸を整えなければ、質問の途中で声が震えそうになった。「表示どおりなら、その可能性が高いですが、医学的な安全性を確認しないまま接続はできません」と篠崎医師が答えた。「成人と新生児では循環血液量が違いすぎますし、免疫細胞を含む血液を直接混ぜれば、急性の拒絶反応や血圧変動を起こす危険があります。AURが接続を要求していることと、それが治療として適切であることは別です」「適切ではないなら、しないでください」「ただし、接続信号がなければ、Dの停止を防ぐ因子を投与できない可能性があります。直接つながずに認証だけを成立させる方法を、現在、細胞処理班と確認しています」「あと十七分しかないのに、確認して間に合うのですか」「間に合わせますとは約束できませんが、危険を無視して朔也さんと子どもをつなげば、十八分を待たずに二人とも危険になるかもしれません。時間が短いからこそ、最初に思いついた方法へ飛びつかないでください」 子どもの気道を確保していた新生児科医が、まだ自発呼吸は弱いものの、胎盤からの酸素供給は保たれていると告げた。私は仕切り布の向こうを見ることができず、子どもの顔も、胸が動いているかどうかも分からなかったため、医師たちが数字を読み上げる

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